発送が遅いとき、最初に出てくる案は「人を増やす」です。ただ、人を増やして速くなるのは、増やした場所が詰まっていたときだけです。

全体の速さを決めているのは、いちばん詰まっている1か所です。これを「ボトルネック」(瓶の首。中身が出る量は、いちばん細い首で決まる)と呼びます。生産管理では「制約理論(TOC)」として昔からある考え方です。

頭では分かっていても、現場で「どこが首か」を見分けるのは難しいものです。そこで、小さな発送センターの模型を作り、条件を240通り変えて動かしました。小さな発送センター・ラボ という無料のWebアプリで、ブラウザーで開けばそのまま触れます。

この記事では、その模型で確かめた「人を増やしても速くならない条件」と「まとめて運ぶと逆に詰まる条件」を、数字つきで説明します。最後に、自分の現場でボトルネックを見つける手順をまとめます。

先にお断りします。この記事の数字は、すべて架空の条件で動かした模型の計算結果です。実在の倉庫の実績や、改善効果の保証ではありません。模型の外の要素(欠品、複数商品の注文、休憩など)は入っていません。それでも、「何を変えると何が動くか」の構造は、実際の現場と同じ形をしています。

模型の条件──24件の注文を、2つの工程で出荷する

小さな発送センター・ラボの中身は、次のとおりです。

条件 選択肢
棚の配置 人気商品を近くに置く/人気商品を奥に置く
注文の入り方 一定ペース(12秒ごと)/朝にまとめて来る(18件が最初の18秒に届き、残り6件は90秒以降)/波がある(8件ずつ3回、90秒おき)
担当の配分 収集1・梱包1/収集1・梱包2/収集2・梱包1/収集2・梱包2/収集3・梱包1
運び方 1件ずつ手で運ぶ/台車でまとめて運ぶ(最大2件・3件・5件)
梱包の速さ 標準(1件16秒)/道具を整えた台(1件12秒)

2×3×5×4×2で240通りです。どの条件でも、注文の中身と順番は同じです。変わるのは到着の時刻と、現場の体制だけです。

見る数字は3つに絞ります。

3つ目が、この記事でいちばん大事な数字です。仕事が繰り返したまる場所の、すぐ先がボトルネックの候補です。

以下の表で、書いていない条件は基準(人気商品を近く/一定ペース/収集2・梱包1/1件ずつ/梱包16秒)と同じです。アプリで同じ条件を選べば、同じ数字を確かめられます(計算に乱数は使っていないので、何度動かしても同じ結果になります)。

発見1:収集を3人にしても、1秒も速くならない

基準の条件は「人気商品を近く/一定ペース/収集2・梱包1/1件ずつ/梱包16秒」です。ここから、担当の配分だけを変えます。

担当の配分 最後の積み込みまで 注文から積み込みまで(平均) 仮置き場の最大
収集2・梱包1(基準) 409秒 87秒 6件
収集3・梱包1(収集を1人追加) 409秒 87秒 6件
収集2・梱包2(梱包を1人追加) 335秒 44秒 2件

収集を3人にしても、結果は1秒も変わりません。一方、同じ1人を梱包に回すと、最後の積み込みは74秒早くなり、注文1件あたりの平均所要時間はおよそ半分になります。

理由は、届く間隔と処理時間を比べると分かります。注文は12秒に1件届きます。梱包は1件16秒かかります。梱包1人では、1件ごとに4秒ずつ遅れが積み上がります。 収集を何人に増やしても、梱包の手前の仮置き場が早く埋まるだけです。基準の条件で仮置き場が6件までたまっているのは、その表れです。

画面で見ると、収集担当は棚と仮置き場の間を忙しく歩いています。梱包担当も休みなく手を動かしています。全員が忙しそうに見えるので、どこが詰まっているかは見た目では分かりません。 手がかりになるのは、商品がたまっている場所です。

発見2:人を増やさなくても、1件の時間を縮めれば同じ効果が出る

梱包を1人増やす代わりに、梱包台の道具を整えて1件16秒を12秒にした場合です。

変えた条件 最後の積み込みまで 注文から積み込みまで(平均) 仮置き場の最大
基準(収集2・梱包1、梱包16秒) 409秒 87秒 6件
梱包を1人追加(梱包16秒) 335秒 44秒 2件
人は増やさず、梱包を12秒に 331秒 45秒 2件

人を1人増やした場合とほぼ同じ結果です。12秒は、注文が届く間隔とちょうど同じです。梱包が到着の速さに追いついたので、遅れが積み上がらなくなりました。

現場に置き換えると、「梱包台に、よく使う箱のサイズとテープと緩衝材が手の届く位置にあるか」という話です。人を雇うより、段取りを整えるほうが安く、すぐ試せます。ボトルネックが見つかったら、まず「そこの1件あたりの時間を縮められないか」を考えます。人を足すのはその後です。

発見3:詰まりは移る──収集が1人なら、梱包を増やしても変わらない

今度は収集を1人に減らした場合です。

担当の配分 最後の積み込みまで 注文から積み込みまで(平均) 仮置き場の最大
収集1・梱包1 526秒 140秒 1件
収集1・梱包2(梱包を1人追加) 526秒 140秒 1件

発見1の逆です。今度は梱包を2人にしても、まったく変わりません。仮置き場には最大1件しかたまっていません。梱包担当は、商品が届くのを待っている状態です。詰まりが収集側に移りました。

つまり、「梱包を増やせば速くなる」は正解ではありません。正解は「いま詰まっている側を増やす」で、どちらが詰まっているかは条件で入れ替わります。 1か所を直したら、次の詰まりがどこに移ったかを見に行く必要があります。

発見4:まとめて運ぶのが効く日と、逆効果になる日がある

台車でまとめて運ぶと、棚との往復が減ります。歩く距離が減るので、効果がありそうに見えます。結果は条件によって正反対になりました。

なお、この模型の台車は、荷台がいっぱいになるまで待ちません。収集担当が手が空いた時点で待っている注文を、上限の件数まで積んで出発します。

効く条件:注文が一度にたまり、収集が詰まっているとき

注文が朝にまとめて来る日で、収集1・梱包2の体制です。

運び方 最後の積み込みまで 注文から積み込みまで(平均) 収集の歩いた距離 仮置き場の最大
1件ずつ 526秒 241秒 336m 1件
台車で2件 446秒 204秒 232m 2件
台車で3件 374秒 180秒 178m 3件
台車で5件 324秒 162秒 128m 5件

まとめる件数を増やすほど速くなり、歩く距離は半分以下になります。収集担当1人の前に注文がたまっているので、1回の往復で何件も拾えるからです。

効きにくい条件:注文がぽつぽつ来て、梱包が詰まっているとき

一定ペースで、収集2・梱包1の体制です。台車で2件・3件・5件のどれにしても、最後の積み込みは412秒で、1件ずつ(409秒)とほぼ同じでした。12秒に1件しか届かないので、出発の時点で待っている注文が少なく、まとめる余地がほとんどありません。そもそも詰まっているのは梱包側なので、収集を工夫しても全体は速くなりません。

増やしすぎると逆効果になる条件:梱包の前に積み上がるとき

朝にまとめて来る日で、収集2・梱包2の体制です。

運び方 最後の積み込みまで 注文から積み込みまで(平均) 仮置き場の最大
1件ずつ 291秒 119秒 1件
台車で3件 240秒 114秒 6件
台車で5件 254秒 127秒 8件

台車3件までは速くなります。ところが5件にすると、1件ずつよりは速いものの、3件より遅くなります。 仮置き場の最大も6件から8件に増えました。収集2人が一度に多く運び込むほど、梱包の手前に荷物がまとまって届くことになります。

まとめて処理が効きやすいのは、前の工程に仕事がたまっていて、かつ次の工程がその量を受け止められるときです。どちらかが欠けると、効かないか、増やした分が逆効果になります。まとめる件数は、多ければよいわけではありません。

自分の現場でボトルネックを見つける4つの手順

模型から持ち帰れる判断基準を、手順にまとめます。発送に限らず、請求書の作成、問い合わせ対応、社内の承認のように、仕事が工程から工程へ渡っていく業務なら同じように使えます。

手順1:工程を2〜4個に分けて書き出す

「受付→収集→梱包→出荷」くらいの粗さで構いません。細かく分けすぎると、どこを見ればいいか分からなくなります。

手順2:工程と工程の間に「たまっているもの」を見る

ボトルネックを探すとき、最初に見るのはここです。梱包台の横の箱、未処理フォルダの書類、承認待ちの申請、返信していない問い合わせ。 忙しそうな人ではなく、待たされているものを見てください。

ただし、注文が一度に届いた直後は、どこにでも一時的な山ができます。見るのは「繰り返したまり、時間がたっても減らない山」です。その山のすぐ先の工程が、ボトルネックの候補です。

数える場合は、毎日同じ時間帯に「いま何件たまっているか」を記録するだけで十分です。全部を測る必要はありません(測る数を絞る考え方は全部数えなくていい──品質管理の測り方を、事務仕事に持ち込むに書きました)。

手順3:「届く間隔」と「1件の処理時間」を比べる

仕事が届く間隔と、その工程が1件を終える時間を比べます。届く間隔より処理時間が長ければ、その工程には遅れが積み上がります。模型では「12秒ごとに届く」と「梱包16秒」の比較がそれでした。

その工程を複数人で分担している場合は、「1時間に届く件数」と「その工程の全員で1時間に終えられる件数」で比べます。

ストップウォッチで5件ほど測れば、目安は出ます。少ない件数の実測なので、ふだんの平均とは限りません。改善の前後で、時間帯や作業内容をそろえて比べてください。実際の現場は作業時間も注文の入り方も揺れます。平均で追いついていても、忙しい時間帯に山が残り続けないかは別に確認します。

手順4:人を足す前に、詰まっている工程の1件を縮める。直したら次を探す

詰まっている工程が見つかったら、順番は次のとおりです。

  1. その工程の1件あたりの時間を縮められないか(道具の配置、段取り、ひな形、入力の手間)
  2. その工程の前で仕事を減らせないか(不要な確認、重複した記入)
  3. それでも足りなければ、その工程に人を足す

この「足す前に使い切る」順番は、制約理論の改善手順(5つの集中ステップ)と同じ並びです。

そして、1か所直したら、必ずもう一度手順2に戻ります。発見3のとおり、詰まりは移ります。 直した後に別の場所で山ができていたら、それが次の改善候補です。

この模型で分からないこと

模型を判断の材料にするとき、何が入っていないかも明示しておきます。

実際の現場では、これらが詰まりの位置を変えることがあります。模型が教えてくれるのは「答え」ではなく、「どこを見て、何を比べればいいか」という見方です。現場の数字は、現場で測ってください。

よくある質問

Q. ボトルネックとは何ですか?
A. 一連の作業の中で、いちばん処理が追いつかず、全体の速さを決めている工程のことです。瓶の首が細いと、中身は首の太さぶんしか出てきません。ほかの工程をいくら速くしても、全体はほとんど速くなりません。

Q. ボトルネックはどうやって見つければいいですか?
A. 工程と工程の間で、仕事が繰り返し「たまっている」場所を探してください。箱、書類、未返信のメール、承認待ちの申請などです。時間がたっても減らない山のすぐ先の工程が、ボトルネックの候補です。忙しそうな人がいる場所とは限りません。

Q. 発送が遅いので人を増やしたいのですが、効果はありますか?
A. 増やす先がボトルネックの工程なら効果があります。そうでなければ、ほぼ変わりません。小さな発送センター・ラボでは、梱包が詰まっている条件で収集を2人から3人に増やしても、出荷が終わる時間は1秒も変わりませんでした(模型の計算結果)。

Q. まとめて運ぶ(まとめて処理する)と効率は上がりますか?
A. 前の工程に仕事がたまっていて、次の工程がその量を受け止められるときに上がりやすくなります。仕事がぽつぽつ届くときはまとめる余地が少なく、まとめる件数を増やしすぎると、次の工程の前に積み上がって遅くなることがあります。

Q. 小さな発送センター・ラボは無料ですか? データは送信されますか?
A. 無料で、登録もいりません。計算はすべてブラウザーの中で行い、選んだ条件や結果は保存も送信もしません。サイト共通のアクセス解析が訪問数を数えるだけです。

おわりに

発送が遅いときに見るべきなのは、忙しそうな人ではなく、繰り返したまっている山です。その山のすぐ先の工程の1件を縮め、直したら次の詰まりを探す。この順番を守ると、人を増やす前に、どこを改善すべきか判断しやすくなります。

まずは小さな発送センター・ラボを開いて、担当の配分を1つだけ変えてみてください。仮置き場の箱が増えたり減ったりするのを見ると、詰まりの位置が目で分かります。

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