業務改善の効果測定シリーズ、第2回です。

前回は、測るものには管理項目(目標に対してどうなっているか)と点検項目(自分たちで動かせる原因)の2種類がある、という話を書きました。

今回は、その測り方の話です。

品質管理には、測り方そのものについての蓄積があります。製造業の言葉で書かれていますが、事務仕事に持ち込めるものが、思ったより多いです。この記事では3つ紹介します。

  1. 全部数えない(抜き取りの考え方)
  2. 数字にできない品質を扱う(限度見本)
  3. 一発で通った割合を見る(直行率)

1. 全部数えなくていい

効果測定でよくある失敗が、全件を数えようとして力尽きることです。

品質管理の「検査」の定義には、こういう注記があります。

注記1 検査には,製品の一つ一つに対して行うものと,複数の製品のまとまり(ロット)に対して行うものがある.
——JSQC-Std 00-001:2023『品質管理用語』10.1

全部見るか、まとまりから抜き取って見るか。これが全数検査と抜取検査の分かれ目です。

これは検査の話であって、改善の効果測定の話ではありません。ただ、負担と精度のバランスを取るという考え方は、そのまま使えます

進め方 向く場面 事務仕事での例
全部見る 件数が少ない。1件の重みが大きい 契約書のチェック、月次の締め処理
一部を抜き取る 件数が多い。全部見ると測定自体が負担になる 問い合わせ対応の内容確認、入力データの精度確認

私がやっているのは、特定の日を選んで撮る方法です

前回、定型業務は作業を撮って時間を測れる、という話を書きました。

そのとき、全員の全部の日を撮っているわけではありません特定の日を選んで、その日にいろいろな業務を撮っています。

これは、いまも続けています。撮って、時間を測って、記録する。月に1回は、実際の現場に行くようにしています。

続けている理由は、数値が落ちたときに気づけるからです。

改善したあと、しばらくは良い数字が出ます。問題はそのあとです。人が変わる、手順が増える、扱う量が変わる。測り続けていれば、そこで数字が動きます。続けていなければ、気づくのはトラブルが起きたあとです。

現場に通うのは、品質管理検定(QC検定)で学んだ三現主義の考え方から来ています。現場・現物・現実。机の上の数字ではなく、実際の場所で、実物を見て、起きていることを見る。

言葉としては前から知っていました。大事だと実感したのは、通うようになってからです。報告として上がってくる内容だけでは、正しい評価ができないと分かったからです。

そしてもうひとつ。現場を知らないと、どこに手を打てば効果があるのかを、相手と合意できません。

前回、基準は決めるより握る方が大変だと書きました。現場を見ていないまま「この数字で測りましょう」と言っても、通りません。自分が見ていないものについては、相手の言い分が正しいかどうかも判断できないからです。

大事なのは「いつ抜くか」です

ここが、この章でいちばん伝えたいところです。

抜き方が偏ると、間違った結論が出ます。 忙しくない週だけ測る。手が空いている人の分だけ測る。それでは実態と違う数字が出ます。偏った抜き方は、測らないより危ないことがあります。

業務量の山と、測っている場所のずれ。平常時ばかり測っていると、山のときのことが分からない

現場には、忙しい時期とそうでない時期があります。月初は忙しい。キャンペーンの時期は忙しい。業務によって、山の来かたは違います。

私は、その山が来るタイミングにも行くようにしています。

平常時だけ見ていると、「回っている」と判断してしまいます。ですが、平常時だけで判断しても、山が来たときに崩れるかどうかは分かりません。

そして、山のときに気にしているのは、忙しくなるトリガーです。

何がきっかけで忙しくなるのか。その引き金が引かれたとき、現場はちゃんと回るのか。ここを見ています。

トリガーが分かると、次に打つ手が変わります。 人を増やすのか、事前に準備しておくのか、そもそも山を平らにできないのか。忙しさを「なんとなく大変」で終わらせないために、見に行っています。

忙しい時期に「速くなっていたら」、疑います

ひとつ、具体的に見ているものを書きます。対応のスピードが変わっていないかです。

忙しい時期なのに、対応が速くなっていることがあります。

対応が速くなった理由は2つ考えられる。余力があるのか、品質を落としているのか

普通に考えれば、良い知らせです。ですが私は、そこで手放しに喜ばないようにしています。考えられる理由が2つあるからです。

  1. まだ余力がある(本当に良い状態)
  2. 品質を落として速くしている(見た目だけ良い状態)

確認を省いた。手順を飛ばした。判断を雑にした。どれも、スピードは上がります。そして数字の上では、改善したように見えます。

だから、速くなっていたら理由を見に行きます。余力があるなら、山の対策はもう少し軽くできる。品質を落としているなら、これは改善ではなく、危険信号です。

前回書いた「数字が良くなったからといって、良くなったとは限らない」の、いちばん分かりやすい例だと思っています。

抜き取り方には、種類がある

品質管理検定の出題範囲にも、サンプリングの種類として「層別」「系統」「2段」「集落」が挙げられています。難しい言葉ですが、事務仕事に置き換えると単純です。

抜き方 やること 使いどころ
層別 グループに分けてから、それぞれ抜く 担当者別、曜日別、忙しい時期とそうでない時期
系統 一定の間隔で抜く 10件に1件、1時間おきに1件
2段 まず大きい単位を選び、その中から抜く まず日を選び、その日の中から業務を選ぶ

私がやっている「特定の日を選んで、その日にいろいろな業務を撮る」「忙しい時期にも行く」は、厳密なサンプリングの設計ではありません。統計として扱うなら、層をきちんと定義して、それぞれから決まった数を取る必要があります。

そこまでやらなくても、考え方だけ借りれば十分です。用語を先に覚える必要もありません。

「その測り方、偏っていませんか」と自分に聞く。 それだけで、だいぶ変わります。

2. 数字にできない品質は「限度見本」で扱う

これは、知っておくと本当に便利な考え方です。

限度見本
計量的に測定の困難な検査及び確認の項目に対して,適合又は不適合となる品質/質の限界を示した例
——JSQC-Std 00-001:2023『品質管理用語』10.7

つまり、数字で表せないものは、「これはOK」「これはNG」の実例を並べて基準にするという方法です。

ITや事務仕事では、「現物」はデータです

限度見本というと、傷のある部品や色味のサンプルを並べるイメージがあると思います。

では、ITや事務の仕事ではどうするか。

私は、品質の合否を現物の見本で伝えた経験はありません。IT の仕事では、部品のような物を扱うことがほとんどないからです。

ただ、やっていたことはあります。委託先が登録した内容を見て、情報が正しく入っているかを確認し、OK か NG かを出していました。

入力欄は埋まっている。でも、後工程で使うには足りない。形式は合っている。でも、意味としてはずれている。そういうものです。

私にとっての「現物を見る」は、これでした。 物がなくても、現物確認はできます。この場合の現物は、登録済みのデータです。

やっていなかったのは、「並べること」でした

判定は、していました。していなかったのは、その判定を見本の形で残すことです。

だから毎回、判定はその都度おこなわれ、基準は確認する人の頭の中にありました。私が見れば NG になるものが、別の人なら通るかもしれない。そこを確かめる手立てがありませんでした。

限度見本というのは、要するにその頭の中を外に出す作業です。

当時の判定を、いま並べ直すなら

当時やっていた OK/NG の判断を、見本の形に整理するとこうなります。

実際のデータは社外に出せないので、項目は一般的なものに置き換えています。 ただし、どこで線を引いていたかという判断の中身は、実際にやっていたとおりです。

判定 登録データの状態 判断
OK 会社名、担当者名、連絡先、請求先、次に必要な対応が入っている このまま後工程へ渡せる
NG 会社名と担当者名だけ。請求先や次の対応が空欄 入力済みに見えるが、後工程で止まる
境界線 必須項目は入っているが、会社名の表記がゆれている 今回は通す。ただし表記のルールを決める

きれいな理想例だけを置かないことが大事だと思っています。

実務で迷うのは、たいてい境界線です。「これは直すほどではないのか」「今回は通してよいのか」「次からは戻すのか」。ここを決めておくと、判断が人の頭の中から外に出ます。

文章で「正しく入力してください」と書いても、人によって受け取り方が変わります。実際のデータを並べて「ここまでは通す」「ここからは戻す」と決めた方が、判断がそろいます。

限度見本は、モノがある仕事だけのものではありません。 データ、メール、申請内容、報告文。人が見て判断しているものなら、見本にできます。

言葉だけの基準は、「何となく」に戻ります

私自身、言葉だけの基準で失敗したことがあります。

在庫の管理で、明確な線を決めきらないまま「何となくこのくらい」というしきい値で運用していたことがありました。その結果、必要以上の在庫を持っていました。

数字の線を引いたつもりでも、判断の中身がそろっていなければ、結局は人の感覚に戻ります。

「多めに持つ」とは、どの状態か。「減ってきた」とは、どの状態か。そこを例で並べておかないと、基準はあるようでありません。

人の感覚で判定してもいい。ただし条件つき

規格には、こういう用語もあります。

感性評価
人間の感覚を用いて製品・サービスの品質/質を評価・判定する行為.
注記 人間の感覚を用いて品質特性が規定要求事項に適合しているかを判定する行為を官能検査という.
——JSQC-Std 00-001:2023『品質管理用語』10.6

人の感覚を使う評価にも、ちゃんと名前がついています。

注目したいのは注記の方です。感覚を使う評価のうち、「あらかじめ決めた基準に合っているか」を判定するものには、官能検査という別の名前がついています。

つまり、基準を決めれば、感覚を使う評価も「検査」として扱えるということです。

逆に言えば、基準がないまま感覚で決めるのは、評価ではなく感想です。人の感覚を使うなら、判定基準を目に見える形にする。 その基準の形のひとつが、限度見本です。

3. 事務仕事に移しやすい指標:直行率

これは掘り出し物だと思っています。計算式まで規格に書かれています。

直行率
計画した数の製品・サービスを得るためにプロセスに投入されたもののうち,あらかじめ定められた以外の作業を受けずに完成した製品・サービスの割合.
——JSQC-Std 00-001:2023『品質管理用語』9.2

言い換えると、やり直しなしで一発で通った割合です。

もとは製造業の言葉ですが、事務仕事にも当てはめられます。

なぜ「処理件数」より使えるのか

処理件数は、忙しさを表します。直行率は、仕組みの良し悪しを表します。

件数が増えても、それが良いことなのかは分かりません。一方、直行率が下がっていれば、どこかで手戻りが増えていると分かります。

使う前に、必ず決めること

ひとつ、落とし穴があります。

直行率が高いだけでは、品質が良いとは言えません。 チェックが甘くて、差し戻しが出ていないだけかもしれないからです。

だから、何をもって「通った」とするかを先に決めてください。 合格の条件を決めないまま測ると、「厳しく見ない方が数字が良くなる」という、いちばんまずい状態になります。

前回の言い方に戻すと、直行率は管理項目(結果を見るもの)です。合格条件をはっきりさせることや、チェックの観点を整えることが点検項目(自分たちで動かせる原因)にあたります。

報告されない手戻りは、数字に出ません

もうひとつ、直行率には見落としやすい前提があります。やり直しや差し戻しが、ちゃんと記録されることです。

正直に書くと、当時の私は直行率を見ていませんでした。委託先の業務で、やり直しや差し戻しがどれくらい起きていたかを、割合としては把握していません。時間は見ていたのに、手戻りは見ていませんでした。

ただ、いま振り返って、やっておいてよかったと思うことがあります。

ヒヤリハットのようなものを、報告してもらいやすくする働きかけはしていました。

こういう事象は、放っておくと表に出ません。実際に起きたことのうち、報告されるのは一部です。言った人が責められる空気があると、報告はもっと減ります。 そして数字だけが良くなります。

直行率も同じです。

手戻りが記録されなければ、直行率は高く見えます。 ですがそれは、仕事が一発で通っているのではなく、手戻りが見えていないだけかもしれません。

だから直行率を使うなら、この2つをセットにしてください。

  1. 合格の条件を決めること
  2. やり直しや差し戻しを、記録しやすくすること

計算式より、こちらの方が難しいと思います。

似ているが違うもの

問い合わせ対応で「一度の返信で解決した割合」を見ることがあります。これは一次解決率と呼ばれるもので、直行率とは少し違います。

追加の質問が来ることは、必ずしも手戻りではありません。相手が理解を深めるために聞いてくることもあります。混ぜずに、別の指標として扱ってください。

3つを、どう使い分けるか

困っていること 使うもの
件数が多すぎて、全部測れない 抜き取り(ただし偏らないように。忙しい時期も見る)
質の良し悪しが、人によってぶれる 限度見本(OKとNGの実物を並べる)
件数を報告しても、良し悪しが伝わらない 直行率(合格条件を先に決める)

そして、どれを使うにしても、前回書いたことが土台になります。

改善に手をつける前に、いまの数字を測っておいてください。 比べる相手がなければ、どんな測り方をしても効果は示せません。

FAQ

Q. 抜き取りだと、正確ではないのでは?
A. 一般には全数の方が実態に近くなります。ただし全数でも、測ること自体の負担が大きいと、記録が雑になって精度が落ちます。全部測ろうとして続かないより、偏らない抜き方で続ける方が実用的です。件数が少ない業務や、1件が重い業務では全数で測ってください。

Q. どのくらい抜けばいいですか?
A. 件数より、偏っていないことの方が大事です。まずは「担当者ごと・時期ごとに数件ずつ」から始めるのが現実的です。忙しい時期の分を必ず入れてください。

Q. 現場に行く時間がありません。
A. 毎日でなくてかまいません。頻度より、忙しい時期にも行けているかの方が効きます。平常時だけ見ていると、回っているように見えてしまいます。

Q. 限度見本は何個くらい用意しますか?
A. OKとNGを1つずつ、それに境界線の例を1つ。合計3つあれば動き始めます。増やすのは、判断が割れた実例が出てからで十分です。

Q. 直行率が下がったら、悪化ですか?
A. 一概には言えません。合格条件を厳しくした直後は下がります。だから、条件を変えた日付を記録しておいてください

おわりに

品質管理の言葉は、製造業の現場から生まれています。ですが、測り方の工夫そのものは、事務仕事にも持ち込めます

全部数えなくていい。数字にできないなら実物を並べればいい。件数ではなく、一発で通った割合を見ればいい。

そしてもうひとつ。数字が良くなっていたら、いったん疑ってください。

忙しいのに速くなっている。差し戻しが出ていない。どちらも、良い知らせかもしれませんし、見えていないだけかもしれません。数字だけを見ていても、その見分けはつきません。

次回は、AIを入れたときの効果をどう測るかを書きます。FAQやチャットボットを入れたあと、問い合わせが減ったことをどう確かめるか。そして、そこでいちばん見落とされやすい落とし穴の話です。

測り方でつまずくのは、たいてい次の3つです。

このあたりは、業務の流れを見ないと決められません。ここを一緒に決めるところからお手伝いできます。

参考にした資料(すべて無料で読めます)

印刷して書き込める版を置いています

この連載で出した表を、書き込めるワークブック(A4・9ページ)にまとめました。無料・登録不要です。
限度見本シート(OK/NG/境界線)、業務タイプ別の早見表、測るものを決めるシート、成果報告シートが入っています。

👉 業務改善の効果測定 スターターキット(PDF)

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