- 「自動化しよう」と言い続けて半年。まだ、一つも動いていない。
- 一番みんなが嫌がっている作業から手を付けて、そのまま止まっている。
- 前に作った業務フロー図が、共有フォルダの奥で眠っている。
改善したい作業を書き出すと、たいてい10も20も並びます。どれも「たしかに面倒」に見えます。
でも、全部はできません。そして、最初の1本を間違えると、改善そのものが止まります。
この記事は、その「どの業務から手を付けるか」の決め方の話です。判断の基準は、私が実際に作った無料ツールの採点ルールとして、後半で全部公開します。
「効果の大きいものから」と言われても、動けない
「優先順位をつけましょう」「費用対効果で判断しましょう」。正論です。反論のしようもありません。
それでも動けないのは、その正論の一歩手前で止まっているからです。「効果が大きいもの」と言われた瞬間に、次の疑問が来ます。で、何を見て大きいと判断するのか。
そこが決まらないまま、現場ではこういう決まり方をします。
- 一番つらい業務=一番複雑な業務であることが多く、手を付けると沼にはまる
- 声の大きい人の困りごとが優先される(それが会社全体で大きいとは限らない)
- 「せっかくだから全部いっぺんに」と広げて、どれも終わらない
この記事では、そこを具体的に進めます。
順番を決める前に──「自動化する」は3番目の選択肢です
なお、ここまで「業務の見える化」「勘の基準化」「資料を更新し続ける仕組み」と書いてきました。今回は、その次に来る「改善の順番」の話です。この記事だけでも分かるように書いています。
いきなり優先順位表を作る前に、ひとつ前の分岐があります。残っている業務を、そのまま自動化の候補にしないことです。
見えた業務は、まずこの順番でふるいにかけます。
① やめられないか
前回までに書いたとおり、「昔えらい人に頼まれた集計」がそのまま残っている、というのはよくある話です。誰も見ていない資料を、自動で作り続ける仕組みほど無駄なものはありません。自動化とは、その作業を未来にわたって固定することでもあります。やめられる業務を先に消すのが、いちばん効果の大きい改善です。
② 減らせないか・まとめられないか
やめられなくても、回数や範囲は減らせることがあります。週次の報告を月次にする。別々に作っていた資料を1つにする。似た確認を1回にまとめる。プログラムを1行も書かずに、作業時間が減ることがあります。
③ それでも残るものを、自動化する
ここでようやく、道具の出番です。
順番を逆にすると、こうなります。要らない作業を、高い精度で、永遠に繰り返す仕組みができあがる。実際、これが一番もったいない失敗です。

残った業務を並べる──「効果」と「やりやすさ」の2軸
ふるいを通った業務を、2つの軸で並べます。
軸1:効果(どれだけ楽になるか)
効果は、感覚ではなく、次の3つで見ます。
| 見るもの | 具体的に | なぜ見るか |
|---|---|---|
| 量 | 1回あたりの時間 × 月の回数 | 「面倒くささ」と「時間の大きさ」は一致しない |
| 人数 | 何人が同じ作業をしているか | 同じ作業をする人が多いほど、効果も広がる |
| 痛み | ミスしたときの影響・止まると困る度合い | 時間は短くても、止まると事業が止まる作業がある |
とくに量は、必ず計算してください。「毎日15分」は、月20日として約5時間です。一方、「四半期に一度、丸2日かかる大仕事」は、計16時間を3か月で割ると、月あたり約5時間強。体感の重さはまるで違うのに、月あたりの時間はほぼ同じです。
そして、前者のほうが自動化はずっと簡単です。毎日やっている作業は手順が固まっていますが、3か月に1回の作業は、毎回やり方を思い出しながらやっているからです。
軸1の落とし穴──イレギュラーを、定常の時間に混ぜない
ここで、多くの人がつまずきます。「1回あたり何分ですか」と聞くと、たいてい幅のある答えが返ってきます。「30分で終わる日もあるし、3時間かかる日もある」。
平均を出そうとして、そこで止まります。おすすめは、1つの数字にまとめないことです。
定常の時間と、イレギュラーは、分けて数えます。
定常として数えるのは、手順がだいたい決まっていて、毎回同じ流れで終わる分です。マニュアルがあるもの、いつも通りに終わった回。「先方の都合で差し戻された」「特殊な条件がついて調べ直した」という回は、この数字に混ぜません。
ただし、イレギュラーを無視するわけではありません。こちらは時間ではなく、「月に何回起きるか」と「どんな種類か」を、別に書き留めておきます。
分けて見る理由は2つあります。
ひとつは、例外まで混ぜた平均は再現しない数字だからです。先月そうだったからといって、来月も同じ割合で起きるとは限りません。ぶれる数字を根拠にすると、効果の見積もりごとぶれます。
もうひとつは、定常とイレギュラーで、打ち手が違うからです。定常部分は、自動化の候補になります。一方の例外は、人が判断する工程として、今の運用のまま、人の手に残すのが現実的です。無理に仕組みへ載せると、「例外が来るたびに止まって、結局人が呼ばれる」という、一番やっかいな状態になります。
そして、書き留めておいたイレギュラーの頻度と種類は、次の軸2でそのまま効いてきます。月に数回程度なら、定常部分だけ自動化して、例外は人が拾う形が組めます。毎日のように起きるなら、自動化の前に「なぜ毎回イレギュラーになるのか」を見直す番です。
軸2:やりやすさ(自動化に向いているか)
こちらは、業務の性質で決まります。私が実際に基準として使っているのは、次の5つです。
| 見るもの | 向いている | 向いていない |
|---|---|---|
| データの形式 | 毎回ほぼ同じ形 | 毎回バラバラ |
| 判断ルール | 言葉で説明できる | 「勘と経験」でしか説明できない |
| 例外の頻度 | ほとんど起きない | しょっちゅう起きる |
| 情報の入口 | Excel・メール・システムなどデジタル | 紙・FAX・電話・口頭 |
| 変える権限 | 自分たちで手順を変えられる | 変えられない(他部署・取引先の都合) |
たとえば、毎月同じCSVをダウンロードして、同じ列を見て、同じ計算をする作業は向いています。反対に、電話で聞いた内容を担当者がメモして、その場の事情で判断している作業は、まだ早い。先に「何を聞くか」「どこに記録するか」を決める必要があります。
このうち、「情報の入口が電話・口頭」だけは、性質が違います。他の4つは「大変になる」要因ですが、これはそもそも自動化の対象にできないという話です。口で言われた内容は、どこにも残っていません。ここは自動化ではなく、「まず記録する仕組みを作る」が先になります。紙・FAXも同じで、デジタル化の工程が前に必要です。
「やる順番のリスト」と「最初の1本」は、分けて決める
ここが、いちばん混同されるところです。取り組む価値の順位と、最初に手を付けるものは、別に決めます。
2軸で並べると、業務は4つのグループに分かれます。
| | やりにくい | やりやすい |
|---|---|---|
| 効果が大きい | 準備が先。基準の言語化・デジタル化から | 本命。影響範囲が大きければ2本目以降へ |
| 効果が中〜小 | 当面やらない | 小さく終われるなら、最初の1本に |
「効果が大きい × やりやすい」は、間違いなく本命です。会社として取り組む価値は一番高い。ただし、ここに落とし穴があります。効果が大きい業務は、たいてい関わる人も、影響が及ぶ範囲も大きいのです。
そこで、1本目を選ぶ条件をもう一つ足します。小さく終われること。 自分たちだけで完結して、うまくいかなければ元に戻せる範囲かどうか。本命でも、この条件を満たすなら1本目にして構いません。満たさないなら、2本目以降に回します。

小さく始めるのには、理由が3つあります。短期間で成果が出ること。失敗しても傷が浅いこと。そして、社内に「自動化すると、こう変わるのか」という実物が1つできることです。
改善が続かない原因は、技術よりも、この最初の1本の選び方にあると感じています。いきなり本丸に手を付けて、半年かかって、誰も結果を見ないまま自然消滅する。それより、短期間で終わる小さな1本を通して、動くものを見せたほうが、次の話が進みます。本命に向かうのは、そのあとです。
私も、そうやって始めました
これは自分の副業の話です。
本職では、業務の流れを整理する仕事を続けてきました。ところが副業を始めてみて、思い知ったことがあります。自分の事業の経理は、本職でも経験のない役回りだったということです。
売上をどう記録するのか。何が経費になるのか。教えてくれる人は、当然いません。調べていくうちに分かったのは、日々の取引を帳簿に付け続ける必要があるということでした。手作業で続けられる自信がなかったので、私の場合は会計ソフト(freee会計)を契約し、まず「毎月、何を、どう登録する運用になるのか」から調べ直しました。
確定申告は、まだ迎えていません。副業を始めて数か月です。だからこそ怖かったのは、申告そのものより、最初の登録の仕方を間違えたまま、1年分が積み上がることでした。
そこで最初に自動化したのが、クラウドワークスの報酬をfreeeに登録する作業です。
理由は、上の基準そのままです。毎月必ず発生する(量)。報酬明細をCSVで落とせるので、入口がデジタルで形式も一定(形式・入口)。契約金額とシステム利用料を分けて登録するという、間違えやすいけれど、やること自体ははっきりしている作業(判断ルール)。そして、自分ひとりで手順を変えられる(権限)。
※どの科目でどう処理するかは事業の形態によって変わります。ここは私の場合の話なので、実際の処理は税理士など専門家にご確認ください。
反対に、まだ経験していない確定申告の全体を、先回りして仕組みにしようとはしませんでした。一度もやったことのない作業は、そもそも手順が分かりません。手順が言葉になっていないものは、軸2でいう「判断ルールを言葉で説明できる」を満たしていない、ということです。不安の大きい順に並べていたら、たぶん今も何も動いていません。
ちなみに例外は、あとから出てきました。報酬から源泉徴収税額が差し引かれる案件が来て、最初の版では対応できず、追加で直しています。例外が少ない業務でも、ゼロにはなりません。だからこそ、例外が「しょっちゅう起きる」業務を最初の1本に選ばないほうがいい、というのが実感です。
そしてもう一つ、1か月ほど使ってから気づいたことがあります。自動で登録されるようになった途端、「本当に全部入っているのか」が不安になりました。
手作業のときは、入力しながら自分の目で確かめていました。自動化すると、その確認の工程だけが、まるごと消えます。楽になった代わりに、見えなくなった部分ができたわけです。
結局、登録した内容と会計ソフト側のデータを突き合わせて、抜けや金額のズレを一覧で確認できる機能を、あとから足しました。自動化は「やってくれる」だけでは足りず、「本当にやってくれたか確認できる」ところまでで一組——これが、1か月使って分かったことです。最初の1本を小さく選ぶべき理由が、もう一つ増えました。作ったあとに、必ず“作り足す”ことになるからです。
🔗 その時に作ったもの:mamagotolab/freee-crowdworks-gas
この判断基準を、ツールに書き下してみた
もう一つ、一次情報として書いておきたいことがあります。
私は、この「どの業務から手を付けるか」の判断を、業務自動化カルテ という無料ツールとして公開しています。12問に答えると、自動化の適性・向いている手段・開発者に渡せる要件整理書が出てくる、というものです。
AIは使っていません。すべて、私が決めたルールで判定しています。作るにあたって、頭の中でやっていた判断を、全部、点数の形に書き出す必要がありました。この作業が、想像以上に厳しかったので、決めた基準を正直に公開します。
重く見ているのは、この3つです。①判断ルールを言葉にできるか ②データの形式が一定か ③例外がどのくらい起きるか。この3つで、点数の半分以上が決まります。
以下が全項目です(細かいので、読み飛ばしていただいても構いません)。
加点していること
- データの形式がほぼ同じ(+20)
- 判断ルールをすべて説明できる(+20)
- 例外がほとんど起きない(+15)
- 月あたりの作業時間が10時間以上(+15)
- 同じ作業をする人が4人以上(+10)
減点していること
- 判断ルールが「勘と経験」(−20)
- 情報の入口に電話・口頭がある(−15)
- 例外がしょっちゅう起きる(−15)
- データの形式が毎回バラバラ(−15)
- 情報の入口に紙・FAXがある(−10)
数字そのものより、符号(プラスかマイナスか)と、その差を見てください。「勘と経験で判断している」は、最大の減点項目です。裏を返せば、前回書いた「勘を基準に翻訳する」作業が終わっているかどうかで、自動化のしやすさは決定的に変わるということです。
見える化 → 基準化 → そして、ようやく優先順位。この順番には、ちゃんと理由があります。
なお、このカルテは入力内容をどこにも送信しません(ブラウザの中だけで完結します)。社内の業務内容を打ち込んでも、外には出ません。使ってみて「うちの業務では、この基準は合わない」と思われたら、それも正しい感想です。判定は目安で、最後に決めるのは現場の人です。
効果の数字は、必ず「試算」と断る
決めた優先順位を、社長や上長に説明する場面が来ます。そこで、効果を数字で示すことになります。ここで一つだけ、気をつけていることがあります。
「これで年間◯◯万円削減できます」と断言しないことです。
自動化しても、ゼロにはなりません。結果の確認は残ります。例外対応も残ります。作った仕組みの手直しも発生します。あくまで自分の目安ですが、削減できるのは作業時間の一部(うまくいっても8割程度)と見込んで提示し、必ず「試算です」と添えるようにしています。
盛った数字で承認を取ると、あとで「思ったほど楽になっていない」と言われ、次の改善が通らなくなります。最初の1本の目的は、数字のインパクトではなく、信用を作ることです。
Q&A
Q. 改善候補が20個あります。どれから手を付けるべきですか?
A. まず「やめられるもの」を消し、次に「回数や範囲を減らせるもの」を処理してください。残ったものを、①1回の時間×月の回数、②同じ作業をする人数、③止まったときの影響、の3つで並べて、優先順位のリストを作ります。ただし、最初に着手するのは、リストの一番上とは限りません。手順が固まっていて、例外が少なく、自分たちで変えられて、小さく終われる業務を1本選んでください。一番上がその条件を満たすならそれで構いませんし、満たさないなら順位を下げて探します。
Q. 一番大変な業務から手を付けてはいけませんか?
A. 禁止ではありませんが、おすすめしません。大変な業務は、例外・判断・関係者が多く、期間が長くなります。成果が出る前に社内の関心が切れてしまう、というのがよくある失敗です。小さく1本通してから本丸に向かうほうが、結果的に早く着きます。
Q. 紙やFAXで届く情報は、自動化できませんか?
A. そのままではできません。まず情報の入口をデジタルに変える必要があります(例:申込みをGoogleフォームでの受付に変える)。この「入口の変更」は技術ではなく業務設計の話なので、取引先との調整も含めて考えます。
Q. 効果が大きいのに、判断が「勘」の業務はどうすればいいですか?
A. 自動化の前に、判断基準を言葉にする工程を入れてください。順番としては、勘を基準に翻訳するのが先です。基準が言葉になっていない業務を無理に自動化すると、例外のたびに人が呼ばれる、中途半端な仕組みになります。
Q. 個人事業主でも、この考え方は使えますか?
A. 使えます。むしろ一人の事業ほど、時間がそのまま売上に直結します。上の私の例のように、「毎月必ず発生して、ルールが決まっている作業」が最初の候補です。
おわりに
改善の順番を決めるのは、技術の話ではありません。どこに時間が溜まっていて、何なら今の体制で変えられるかを見極める作業です。
まずは、見える化した業務を1枚の表にして、「1回の時間」「月の回数」「同じ作業をする人数」の3列を埋めてみてください。それだけで、体感と実際の順番がずれていることに気づくはずです。
迷ったら、無料の業務自動化カルテで、候補の業務を1つ診断してみてください。「やめるべきか」「減らすべきか」「自動化に向いているか」を考える材料になります。出てきた要件整理書は、そのまま社内の相談にも、開発者への依頼にも使えます。
もう一つ。この順番を決める作業でいちばん難しいのは、技術ではなく、「その業務、やめませんか」と言うことです。社内の人間が言うと角が立ちます。外部の人間なら、担当者を責めずに、机の上に載せられます。そこで詰まったときは、ご相談ください。業務の流れを整理する“要件定義”から、優先順位づけ・リスクの洗い出し、実際の開発と運用まで対応しています。
ママゴトラボは、業務の自動化ツールを要件定義から設計してつくる開発ラボです。
「この作業、自動化できないかな?」がありましたら、お気軽にご相談ください。
👉 https://mamagotolab.com