- 「先月いくら売れた?」とAIに聞けたら、たしかに便利だと思う。
- でも、AIが勝手に取引を登録したり消したりしたら、と考えると手が止まる。
- 顧問の先生に「AI連携してるの?」と聞かれて、なんと答えるか迷った。
AIが会計ソフトを直接操作できる仕組みが、2026年に一般公開されました。freeeも公式の連携サーバーを無料で出しています。「請求書を作っておいて」と話しかけるだけで、取引先の登録から請求書の発行まで進みます。
便利です。同時に、同じ経路で削除もできます。
この記事は、その分かれ目をどう決めるかの話です。結論を先に書くと、判断は3つの質問で終わります。しかも実際の作業は、freeeの管理画面でチェックを1つ外すだけです。プログラムは書きません。
「気をつけて使う」は、対策になりません
先に、よくある落とし穴をひとつ。
AIに何をさせるかは、お願いの仕方では決まりません。「読むだけにしてね」と伝えても、権限そのものが残っていれば、書ける状態は変わりません。人間の部下なら通じる言い方が、ここでは通じません。
私はfreeeの連携で、実際に権限の挙動を測りました。「読み取りだけ」を要求したのに、書き込みの権限まで付いてきました。 要求の仕方ではなく、事前の設定のほうが優先される作りだったからです(技術的な検証の詳細は記事末尾に置きます)。
だから、対策は1つしかありません。
書かせたくないなら、書ける権限を最初から渡さない。

決めるのは3つだけです
自社の会計をAIにどこまで任せるか。この3問で決まります。
① 見せていいか(読み取り)
残高、試算表、取引の一覧。ここは間違えても元に戻せます。AIが数字を読み違えても、帳簿は1円も動きません。そして、効果が一番大きいのもここです。「今月の粗利は?」「去年の同じ月と比べて?」に即答が返るだけで、月次の確認はかなり軽くなります。
② 作らせていいか(下書き)
請求書や取引の「案」を作らせる段階です。ここはAIに作らせて、人が確定する形にします。判断はAI、最後のボタンは人。この線を引いておけば、間違いは確定前に気づけます。
ただし、正直に書いておきます。下書きであっても、データを新しく作る以上は「更新」の権限が要ります。 freeeの側に「下書きだけ作れる権限」という中間の設定はありません。つまり②を選ぶ時点で、書ける鍵を渡すことになります。だからこそ、まず①から始めるのが現実的です。
③ 消させていいか(更新・削除)
過去の取引を書き換える、消す。ここは渡しません。 理由は単純で、元に戻す手順を私が説明できないからです。
判断の基準は、結局これに尽きます。
「間違えたとき、どうやって元に戻すか」を先に言えるか。
言えない操作は、AIにも、自分が書いたプログラムにも渡しません。私が自分のツールを作るときも同じ基準で線を引いています。
実際の作業:アプリを2つに分けます
ここが本題です。難しくありません。
freeeを外部のサービスと繋ぐときは、「連携設定」を1つ作ります(freeeの画面では「アプリ」と呼ばれますが、スマホに入れるアプリのことではありません。繋ぎ口の設定だと思ってください)。
この設定を作るときに、どのデータを・見るだけか・書き換えもできるかを、チェックボックスで選びます。「[会計] 取引」という行に、「参照」「更新」という列が並んでいる画面です(2026年8月時点の画面です)。
やることは1つです。
AIに繋ぐ用の設定は、「更新」のチェックを外して作る。
これだけで、そのAIは読めるけれど書けなくなります。私が実際に試したところ、書き込もうとした時点でfreee側にブロックされました(「この操作を行う権限がありません」という趣旨の拒否が返ります)。AI側でどう指示を工夫しても、この壁は越えません。
そして、自動化のプログラム(毎月の仕訳登録など)を動かしている場合は、そちらは別の設定として残しておきます。
| 用途 | 権限 | 意味 |
|---|---|---|
| AIに繋ぐ設定 | 参照のみ | 聞けば答える。書けない |
| 自動化プログラム用の設定 | 参照+更新 | 決まった手順で書き込む |
同じ会社の同じ帳簿でも、鍵は2本に分けられます。 片方を落としても、もう片方は無事です。

ひとつ見落としやすい点があります。権限を変えただけでは、すでに繋いである接続には反映されません。 AI側の接続をいったん解除して、freeeと繋ぎ直してください。新しく繋ぎ直したときから、変更後の権限になります。
なぜ「読み取りだけ」から始めるべきか
海外では、この考え方がもっとはっきり出ています。
米国の会計サービスDigitsは、2026年4月にAI連携の仕組みを公開しましたが、あえて読み取り専用に限定しました。理由として掲げているのは「帳簿の整合性を守るため」。機能を絞ったこと自体を、売りにしています。
一方のfreeeは、書き込みまでできる形で公開しました。どちらが正しいという話ではありません。線を引く責任が、サービス側にあるか、使う側にあるかの違いです。freeeを使うなら、線は自分で引くことになります。
そして実務では、読み取りだけでも十分に元が取れます。経理の手間の多くは「入力」ではなく「探す・確かめる」に消えているからです。
たとえば、こういうことが会話で済むようになります。
- 「先月の交際費、いくらだった?」
- 「この取引先からの入金、もう入ってる?」
- 「去年の同じ月と比べて、粗利はどう?」
- 「この経費、前はどの科目で入れてたっけ?」
どれも、今なら画面を開いて、期間を指定して、絞り込んで、目で追う作業です。それが1問1答になります。 しかも読み取りだけの設定なら、何をどう聞いても帳簿は1円も動きません。 気軽に聞ける、というのが効きます。
私の実感では、ここだけで月次の確認はかなり軽くなります。書き込みの解禁は、そのあとで構いません。
私が書き込みを自動化したときにやったこと
参考までに、自分の運用の話を。
私はクラウドワークスの報酬を、毎月freeeへ自動で仕訳登録しています。手数料が引かれた入金額をそのまま売上にすると、売上が過少になり手数料も経費に立てられないので、売上と手数料を分けて計上するところまで自動でやっています。
🔗 実物はこちらで公開しています:mamagotolab/freee-crowdworks-gas
このとき、書き込みを始める前に決めたことが4つあります。全部を確かめ終わるまで1件も登録しない。同じデータは二度と通さない。登録できたものは必ず記録に残す。あとから突き合わせて確認できるようにする。
なぜプログラムには書き込みを任せて、AIにはまだ任せないのか。違いはここです。
プログラムは、この4つを毎回そのとおりに実行します。 例外はありません。決めた手順を外れることが、そもそもできない作りだからです。
AIは、指示すれば同じことを「やってくれます」。でも、毎回そのとおりにやったかどうかを、こちらが確かめる手段がありません。 1回目は守り、100回目にうっかり違う判断をした、というのが起きうる。会計では、その1回が問題になります。
だから私は、AIには読み取りと下書きまでを任せ、確定の書き込みは自分のプログラム側に残しています。 使い分けの話であって、AIが劣っているという話ではありません。
よくある質問
Q: 無料でできますか?
A: freeeの公式連携サーバー自体は無料で公開されています。別途、freeeの契約プランと、使うAIサービス側の費用がかかります。
Q: 「読み取りだけにして」とAIにお願いすれば済みませんか?
A: 済みません。実測では、読み取りだけを要求しても、事前の設定に更新権限があれば書き込み権限まで付与されました。権限の実体は設定画面のチェックボックスです。
Q: 権限を絞ったのに、まだ書き込めてしまいます。
A: 繋ぎ直していない可能性が高いです。AI側の接続をいったん解除して、freeeと繋ぎ直してください。設定変更は、次に繋いだ接続から反映されます。
Q: どこから始めるのが安全ですか?
A: 参照だけのアプリを1つ登録して、読み取りから始めてください。書き込みは、重複を防ぐ鍵・実行結果の記録・突き合わせの手段が揃ってからで十分です。
おわりに
AIを会計に繋ぐ話は、これから「繋げるかどうか」ではなく「どこで止めるか」の話になります。
そして、どこで止めるかは、道具の性能では決まりません。自社の業務のうち、どの数字なら見せてよくて、どの操作は人が押すのか。 その線引きを決める作業です。ツール選びではなく、業務の設計の仕事だと考えています。
次は、この線引きを引いたうえで「では毎月の経理のどこから自動化するか」を書く予定です。
技術的な検証の詳細(権限がどう振る舞ったかの実測データ、確かめ方の手順)は、開発者向けにこちらへ書きました。
🔗 【実測】freee公式MCPは FREEE_SCOPE=read では読み取り専用にならない
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